ヨーロッパやアメリカでは動物の「生存権」という考え方が広く浸透し、近年、化粧品や医療製品の研究開発において動物を使用しないことを公言する企業が相次いでいる。
EUでは動物実験が行われた化粧品の販売を禁止するなど、人々の動物実験反対の声が企業や政府の方針に反映されている。
一方、日本はその流れに遅れをとっており、企業や医療・教育現場において動物が不必要な苦痛と犠牲を強いられ、この状況はすぐには変わりそうもない。
日本国内において、動物実験を行わず、PETA(国際的な動物愛護団体で動物の倫理的扱いを求める人々の会)から認定を受けている企業はわずか4社。2022年には化粧品や洗剤の分野を中心に、6000社が認定された欧米諸国にくらべてその差は歴然だ。
日本では動物実験に関する情報を公開している企業が少なく、そもそも動物実験の是非について建設的な議論をすることが難しい。
課題の多い日本ではあるが、近年は若者を中心に動物の生存権への意識が高まっており、大学でも生きた動物を使った実験を避ける動きが出てきている。岐阜大学獣医学部共同教育開発推進センターは、学生の要望を受けて、10年ほど前から外科手術の実習で生体の代わりに手術用ビデオやスポンジを使用することを決めた。
しかし、これでは学生が十分な手術スキルを身につけることが難しいため、2022年4月、クラウドファンディングを利用して「生体モデル」を導入した。この正体モデルは本物の動物の体を忠実に再現したもので、実際の手術にダイレクトに応用することができる。
岐阜大学の渡辺和弘教授は、「動物に対する社会の価値観が『動物は家族』という考え方に変わり、獣医師も動物福祉を強く考えるようになった」と話す。
また、動物実験禁止を掲げるコスメブランドとして日本でも認知されているのは、1995年に英国で創業した美容ブランド「LUSH」。製品の安全性確認テストを行い、動物実験を行っていない成分のみを使用している。各店舗に陳列されたカラフルなシャンプーや石鹸のボトルには、その「Fighting Animal Testing」のロゴがひときわ目を引く。
東京・新宿のLUSHで買い物をした中学1年生の女性は、SNSで動物実験の存在を知ったという。「美を追求するあまり、動物の命が犠牲になるのはおかしいと思います」と話している。
影響力の大きい有名企業ほど変わる必要があり、大規模な動物実験行為は世界的批判の対象となりうる。ロイター通信によると、アメリカの実業家イーロン・マスク氏の医療会社「ニューラリンク」は、麻痺した人を再び歩けるようにするための脳インプラントの開発において、2018年から実験で羊やサルなど推定1500匹の動物を殺害し、福祉違反で告発された。
「便利な日用品や医薬品の裏には、多くの犠牲がある。動物にも命と権利があることを伝え続ける必要がある」とPETAアジア代表のイマイ氏は語っている。