
愛犬と一緒に寝ている人はきっとわかるだろう。
犬は飼い主と一緒のベッドで、一緒の時間に眠りにつきたい。
とはいえ飼い主にも夜にやりたいことがある。でも犬はしつこく「寝ようよ」アピールをしてくる。さて、最終的にどうするか。
ある男性がエッセイ風に書いた、ある夜の妻と愛犬のエピソードがおもしろいので紹介したい。
寒い冬の夜、妻と2人きりで家にいて、ドラマの新作シリーズを一気に観ている。第1話で釘付けになり、第2話も夢中になったが、第3話の途中からスマホを覗き始め、結果的にストーリーを見失ってしまった。大まかな流れはわかるが、核心を捉えていない。
「ちょっと待って」と妻が言う。「さっきの死んだ男って、つまり生きてたってこと?」
「ああ、そうだな」と私は答える。
「ちゃんと見てないでしょ」と彼女は言う。
「死んだ男だよ。何らかの理由で生き返ったんだ」と私が答える。
「相変わらずスマホで自分のこと調べてたの?」
「ちがう。先週の緊急メッセージに返信してるんだ」
すると犬が部屋に入ってきて、妻の目の前に座り、哀れみと懇願の混じった表情で妻を見上げる。前足を伸ばし、妻の膝の上に置いた。
「何がしたいの?」と妻が言う。犬はじっと見つめる。
「外に出たいの?」と妻が言う。
「15分くらい前に外に出したばかりだ」と私は言う。
犬は妻の膝から前足を離し、数秒後、今度はより強く押し付けるように再び置いた。
「何がしたいのかわからないわ」と妻が言う。「散歩にも行ったし、ご飯も食べたでしょう」
「寝なさいって言ってるんだと思うよ」と私が言うと、妻は犬を見下ろした。
「じゃあ寝なさい」と妻が言う。
「違うよ。あなたの寝る時間だって言ってるんだ」と私が言うと、 犬はその通りだという顔でじっと見つめる。
「私の寝る時間じゃないわ。これ観てるんだから」と妻はテレビを指さしながら言うが、犬はわざとらしくあくびをする。前足はそのまま妻の膝に置かれたままだ。
「君はもう負けたと思うよ」と私は言う。
「 そんなことないわ」妻は犬の足を膝から外しながら言う。「犬に寝る時間を決められたくないわ」
「犬学校に通った結果だよ」と私は言う。
というのも、犬は「良い犬になるための基礎講座」を受けて先週修了証書を受け取った。しかし訓練の結果、妻のひとつひとつの行動に異常な執着を示すようになってしまった。
「これは犬の訓練で習ったこととは関係ないわ」と妻は言いながら、つま先で犬をつついた。「疲れてるなら、私抜きで寝ていいわよ」
「それは無理だろうな」と私が言うと、
「じゃあ、あなたが寝かしつけて」と妻が言う。
「 俺の寝る時間じゃない」
「私の寝る時間じゃないのよ!」
「とにかく、この続きを見なきゃ」
「あと3話もあるのよ!私抜きで見られるわけないでしょ!」と妻は怒り出す。
「寝ないからね!」妻が立ち上がり部屋を出る。犬が後を追う。
しばらくして妻がドアの隙間から身を乗り出した。
「もう寝るわ」。
残りのエピソードを1人で観ようとするが、話が追えない。終わってみれば、最初から観ていなかったかのように混乱している。
階下の明かりを消しながら、犬と妻の間に新たに生まれた強い絆と、自分がその関係から取り残されているのかどうかを考える。
犬は妻の言うことはよく聞き、自分の命令にはなかなか従わない。でもその代わり、私は常に犬に監視されたり、門限のようなものに縛られたりすることはない。寝たい時に寝られる。
私が二階へ上がると、妻はベッドサイドランプの光のもとで、本を手にしたまま眠っている。私の側のベッドでは、犬が布団の下に伸びきって横たわり、頭を私の枕に乗せて寝ている。
「何してるんだ?どきなさい」と私はささやく。犬は目を開け、まっすぐ前を見つめる。
「こっちを見ろ」と言うと、犬はしばらく私を通り越した先を見つめた後、再び目を閉じた。
ちょっと旦那さんがかわいそうになるストーリーだ。犬は訓練学校で一体どんな魔法を習得したのだろうか。
トレーニングを受けていなくても、犬は人の気持ちを動かし、固い意志すらも変えてしまうパワーがあるのは間違いない。